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症例(1)入れ歯が古くなり、特に奥歯は、上と下が当たっていない
 都内に住むKさんは、地下鉄を使って来院されましたが、息をするのもつらそうに「先生、やっとこれました。地下鉄から診療室まで、長い階段を杖をつきながら上ってきました」と言うのです。
 早速、口の中を診させてもらうと、入れ歯が古くなり、特に奥歯は、上と下が当たっていない状況でした。
 また、下の前の歯だけが残っており、その前歯でしか噛めない状態でした。
 治療としては、低くなった奥歯を上げるということと、いままで噛んでいた前歯の当たりを少なくすることで、左右奥歯でかみ合わせトレーニングを行い、歩いてもらうと、杖なしで歩けるようになりました。

症例(2)入れ歯が安定せず、ガタつきを起こし
 2〜3年前の年の暮れのある日、以前、私のところへ通院していたBさん(98歳・男性)が、「先生お久しぶりです。私も高齢になりまして、来年になると、こちらに来れるかどうか分かりませんので、今日は、車椅子を押してくれるヘルパーさんが来てくれたので、お願いして連れてきてもらいました」といって来院されました。
 Bさんが言うには2〜3年前より、だいぶ前に作った入れ歯が徐々に合わなくなり、噛むと痛いので、最近では、食事の時を除いて外しているので、治してほしいということでした。
 調べてみると、下のあごの骨が下がり、そのために、入れ歯が安定せず、ガタつきを起こし、長い間入れていると歯ぐきに傷がつき、痛みのために外していることが多くなり、また、傷がついている部分をさけて噛むという片噛みの状態でした。
 かみ合わせを調べるために、聴力を計測したところ、左側の耳は聞こえても、右側の耳は全く聞こえないという数値で、右側だけで噛んでいることがデータでも確認できました(表1・左側参照)。


 とりあえず応急的に、その入れ歯が口の中で安定するように治療を行い、外さなくても良い状態にしました。
 そして、同日、痛みを感じなくなった後、右側、左側とかみ合わせトレーニングをしてもらい、それらひととおりの治療が終わった後、再び聴力を計測したところ、いままで聞こえていなかった右側の耳が、左側と同じ程度に回復していました(表1・右側参照)。
 この回復にわたしも非常に驚かされましたが、この後にそれ以上に驚かされることが起きました。
 といいますのは、これだけ聴力の値に変化があるということは、頭位の左右バランスも正常になっているに違いないと考え、もしや立てるのではないかと思われたので、Bさんに、「一度立ってみましょう」と、うながしました。するとBさんは、「そんなことはできませんよ、だってもう2年も車椅子の生活ですから」と躊躇されましたが、「わたしが手を貸しますから」と強く言って、Bさんの両手を持ち「一、二の、三」と掛け声をかけ、うながしたところ、Bさんは、スーッと立ち上がることができたのです。
 ここまでくると、歩くこともできるかもしれないと思い「少し歩いてみましょう」と言って一歩、二歩と導くと、Bさんも私について一歩、二歩と歩き始めたのです。
 その後、診療室内の通路を1〜2往復したあと、Bさんは「おれ、ちょっとトイレに行ってくる」といって、医院外にあるトイレまでヘルパーさんと一緒に歩きだしたのです。
 その時一緒に来られたヘルパーさんも「こんなことがあるのですね。いままでこのようなことは一度もみたことがありません。入れ歯って大事なものですね」と言って非常に驚いていました。

症例(3)入れ歯が安定せず、ガタつきを起こし
 以前、当院に通院し、かみ合わせバランスの改善で、からだ全体の症状が良くなり、快適に生活ができるようになった患者さんが、以前作った入れ歯が落ちて調子が悪いというご主人を連れてこられました。
 聞くところによると、Tさん(80歳・男性)は、入れ歯が落ちるという不具合とともに、最近、微熱が続き、耳の聞こえも悪くなり、また、肩が痛く、首が回らない、歩行に支障をきたしていることで、何をする気も起こらず、何か重篤な病気にかかっているのではないかという心配で、いらいらする毎日を過ごしているとのことでした。
 医科にてMRI、CTなどの一連の検査を受けましたが、原因が分からないということでした。
 口腔内を調べてみると、上あごの総入れ歯の適合が悪く、ガタつき、口を開けたり、噛んだりするたびに落ちてくる状態で、そのために入れ歯が絶えず動くことで、歯ぐきに傷ができ、そこから感染して、歯肉の炎症になり、微熱が続いていたことが分かりました。
 聴力を測ってみると、左右ともに低下しており、耳鼻咽喉科では、老人性難聴で補聴器を薦められているということでした。
 聴力のデータからも、左右に低い音から高い音にかけての聴力の低下があり、特に、高い音になるにつれて低下傾向が強くなるという、いわゆる老人性難聴タイプになっていました。
 これをかみ合わせの基準にあてはめると、左右低い音の低下は、左右の奥歯が低くなり、あごの関節の先端が側頭骨を刺激することによる反応と考えられます。また、高い音の低下は、残っている前歯の当たりが多いということが考えられます。
 入れ歯の不適合で、全体に低くなった状態を改善するために、奥歯の高さを盛り上げ、かつ前歯の接触が少なくなるような処置を行いました。
 その処置を行ったことで、同時に三つのことが改善できました。
 第一番目として、上あごの入れ歯の吸着がよくなり、安定しました。
 次に小臼歯から奥歯まで、全体でバランス良く噛むことができるようになったことです。